魚卵まつりの夜
クーです。
東海林さだおの丸かじりシリーズの中で
「最後の晩餐に炊き立ての白米を食べてよいと言われ、その上おかずを一品だけつけてやろうと言われたら何を選ぶか」
という話があった。
確か東海林さだお自身は「生卵」がダントツで1位だったと思う。
で、その後が塩鮭とか納豆だったような気がする。
(本を引っ張り出すのが面倒だし、どの本に書いてあったか記憶も曖昧なのでそういうことにしておく)
これに異議を唱える人はそんなにいないと思う。
「生卵」は私も上位に入ってくる。
卵かけご飯は美味しい。
「納豆」もほぼ毎日食べるくらい好きだ。
でも1位じゃない。
私が選ぶなら「筋子」だ。
これこそ
「異議あり!」
の怒号が飛び交いそうだけれども。
海ナシ県で育ったくせに、新潟出身の母のおかげで我が家の食卓には頻繁に丸々一本で届いた新巻鮭や筋子が上っていた。
新巻鮭が届くと、指導するのは母、捌くのは父。
その楽しそうな様子は今でも覚えている。
余談になるけど、新巻鮭の尻尾と頭はどうするか。
我が家では頭は少し塩抜きをし、鼻から縦に半分に切ったのを鍋に入れたり煮物にする。
尻尾は気持ち多めに身を残し、そのままどこか風通しの良い日陰に吊るして数日干す。
イイ感じに乾燥したら骨ごと出来る限り薄く切り、なるべく良い日本酒にひたひたに漬け冷蔵庫で1日。
これは寒い冬にしかできないけれど、とにかくものすごく旨い。
鮭トバのような臭みがなく、クニクニした身と皮の食感がたまらない。
良い新巻鮭が手に入ったら是非試してみて下さい。
で、話を戻しますと。
静岡に来てから残念な事。
とにかく魚が置いてありそうな所には「マグロ」ばっかりだったということだ。
確かにマグロは美味しい。
生シラスや桜エビを初めて食べた時本当に美味しいと思ったし、
「あぁ、これが旬の物、その土地でしか食べられない物を食べる贅沢なんだな」
としみじみ思った。
それがとても幸せな事だということも理解している。
でも。
どうしても食べたくて食べたくて仕方なくなる物って皆絶対にあると思う。
隅っこに追いやられた何だか妙にピンク色のタラコ。
見かけても1、2個しか置かれていない妙に赤くてほぐれた筋子。
たくさん並べられてはいるけどなーんかピンとこない味の鮭。
スーパーはもちろんデパートの地下や魚市場なんかで彼らを見かける度、
「ひょっとしたら」
と期待しながら買ってくる。
そしてワクワクしながら1口。
「・・・そうか、そうきたか」
と小さく呟く。
鮭は1切れが2日かけてやっと消費され、筋子は危うく忘れそうになるくらい長い期間冷蔵庫に陣取ることになる。
もしかしたら意識的に見ないようにしているのかもしれない。
何度懲りても、
「今度こそ」
と思いながら一向に学習能力の向上が見られない。
そして毎度溜息をつく。
ここ2年程、新潟に帰る機会がなくてちょいちょい禁断症状が出ていた私。
先日ユキが突然
「なぁ、マルヒコに頼もうよ。」
と言ってきた。
マルヒコは新潟に行った時、少々遠回りしても寄る店だ。
随分前に「HPあったよ」と言った私の言葉を彼は覚えていてくれたらしい。
「でも高いよ?」
と迷う私に
「たまにはいいじゃん」
おお。なんという神のお言葉。
さっそく2人で新津弁を懐かしみながら電話注文をした。
コレクトコールのクール便でやって来た愛しい彼ら。
ニヤけた顔でいそいそと荷物を受け取る女。
配達のお兄さんはさぞかし不気味だったに違いない。
写真じゃ見難いけれど奥が銀鮭、手前が紅鮭の山漬け。
「山漬け」っていうのは鮭と塩を交互に山のように積み上げる事からきた名前だとか。
もっと色んな種類を頼みたかったのだけど、去年は鮭が不漁だった為に中々手に入らないらしい。
なるほど、いつもよりちょいと薄い切り身のような気もする。
こっちでもノルウェー産のをよく見かけるのが頷ける。
ノルウェー産の物はソテーにするなら良いけど、塩鮭にすると脂がのりすぎていて私は苦手だ。
本当は「塩引鮭」が残っていたら1切れでも・・・なんて淡い期待を抱いていた私達。
時期が時期だし今年は本当に数が少なかったとのこと。
「塩引鮭」というのは村上名産の手間のかかる塩鮭で、塩漬けにした鮭を寒風で干す独特の旨味を持った高級品。
これを丸ごと1本買おうと思ったら目玉が飛び出るくらい高い。
でも食べると鮭の概念が変わってしまうくらいものすごく旨い。
これで鮭のおにぎりなんか作ったらもう他のは食べられなくなる程、独特の風味があって美味しい。
んん、残念。
まぁ時季外れなのは重々承知。
いいのさ、メインがあれば。
メインの魚卵たち。
写真左から「ます子」 「内地子(ないちこ)(鮭子)」 「たらの子」
筋子にも鮭の子とマスの子がある。
「内地子」っていうのは鮭子の事。元々は漁師がそう呼んでいたらしく、今じゃ若い人はあまり言わないみたいだ。
じゃ、魚卵まつりの始まりだよ。ひゃっほー。
とりあえず「紅鮭の山漬け」だけ焼いてみる。
ハッと気づいたら一口食べてしまった。
食べかけすみません。
はぁ。
旨い。
あのね、しょっぱいんだけどしょっぱくないの。
白い米がなくてもこの鮭だけで、腹の方まで食べられる塩加減なの。
ただ塩っぽかったり油ぽかったりする鮭とは違って、1枚づつ箸で取れるプリッとした身。
「そうです、鮭です」っていう鮭独特の味がしっかりする。
皮もパリっとして旨いなぁ。
では念願の「内地子」を炊き立てのご飯に。
くぅ・・・。
「ど、どうした?」
とユキがビックリして聞いてきたくらい、私は泣きそうな顔になっていたみたい。
実際泣きそうなくらい旨かったわけだが。
だってこれが食べたくて食べたくて仕方なかったんだもの。
唇がヒリヒリするくらいしょっぱい。
けど旨い。
イクラとは違い、ねっとりとして噛みつくとトロリと濃厚な味が舌にまとわり付いてくる。
熟成した味。
このねっとりがたまらない。
コクがあって深みがあって。
ああもう箸が止まらないよ。
「マス子」は「内地子」と比べるとさらりとした味で少し独特の苦味がある。
よく見かける、なんだか鰹ダシだか醤油だかがプン鼻をついて不自然にプチンとはじけてしまう変な筋子とは違って、柔らかくプツリと割れて、とろりと口の中に広がる味はなんとも言えず旨い。
たまたま見かけたこのビール。
まるで生ビールのような旨味と苦味があってすごくイイ。
でも今日はユキにグラスに注がれて
「飲まないの?」
と言われるまで手が伸びなかった。
いつも夕飯はビールを飲みながらちびちびとしかつままない私。
えへ。
ご飯2杯目。
(ユキの好奇の視線)
ルクルーゼで炊いた白米は美味しいな。
おこげつき。
こちらはユキたっての希望で多めに注文した「たらの子」。
明太子も確かに旨いのだけど調味液に付け込む分、どうしても卵が水分を多く含んだようにバラバラ感が増すような気がする。
それに比べるとこれは一粒一粒がキュっと締まって味が濃縮された感じ。
塩加減が抜群。
これも旨いなぁ。
少しもったいないけどシラタキとタラコをさっと煮炒めた真砂煮も美味しい(酒、みりん、ほんのちょっとだけ醤油をたらす)。
表面をサッと焼いて熱いほうじ茶を上からかけるだけのお茶漬けもこれまた旨い。
大好きだ。
ムッ。
なんか気配が。
あ。チコさん。
スタンバイされていらっしゃいましたか。
(実は鮭を焼いている時からずっと足元でふにゃふにゃまとわりついて危険極まりなかった)
普段はあげないけど・・・しょうがないナ。
旨いものは皆で分け合おうか。
(鮭を小指の爪の先程)
ちょっ・・・早っ。
あぁ、なんて幸せなんだ。
今夜もし間違って突然死んでしまっても悔いはない。
(明日はイヤだけど)
「オレさ、普段あんまり鮭とか筋子とか食べないじゃん?」
と新たな筋子に手を伸ばすユキ。
そう言えばそうだね。
でも今日は私以上に食べてないか?
「だっていつものはやっぱり不味いし(笑)」
コ、コノヤロー。
いつも「コレ買おうよ」とかそそのかしておきながら、1口食べて「あれ?」と思ったヤツは私に喰わせていたんだな?
どうりで塩鮭も筋子も減らないわけだ。
九州出身の彼は今まであまり鮭だとか筋子だとかを食べた事がなかったらしい。
でも1度新潟に連れて行ってからは
「今回は何を買って帰ろうか?」
と私よりテンションが上がっているユキを見ることが多々あった。
喜んでパクパクと頬張る私を見て
「注文して良かったね」
と微笑むユキ。
でもひょっとしたら本当は彼の方が食べたかったのかもしれない。
コレステロール?
塩分過多?
なぁに、それ?
ま、たまにだからイイんです。
やっぱり私の白米の友第1位は「筋子」に揺るぎない。
そんなに旨いもんじゃないよなぁ?って思っている方。
是非ちゃんとした筋子や鮭を食べみて下さい。
筋子が愛おしくなるかもしれません。
(ウソ)
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